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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (98)
経済小説
2011年3月27日 07:00

<スポンサー選定>

 再生手続の話が先行してしまったが、今後、スポンサー企業に当社の顧客・管理物件・入居者や取引先との契約関係などを継承し、あわせて残された社員たちを全員継続雇用していただくことが、私の社員たちに対する責任であった。もちろん、少しでも大きな再生原資を形成するために、事業を高く買っていただける先に売却することが最優先である。しかし、一方で会社は人員リストラを完了し、すでに十分効率的な体制となっていたため、なるべく大きな原資の形成という目的の範囲内で、社員全員を継承していただけるスポンサーを選定することを目標とした。加えて本社事務所や情報システム、会社のロゴなども一括して継承してもらえれば、顧客であるオーナーの方々も安心してついてこられ、従業員もこれまでどおりの職場環境で戸惑いなく仕事ができて有利なように思われた。

 申立に先立ち、代理人弁護士を選定する際、土居事務所からは、スポンサー選定などは会社側主導でやってほしいとの話があった。倒産処理を東京の弁護士に頼むと、弁護士の主導により進められることが多いようだが、私としても、顧客や社員のためにも、適切なスポンサーを探して事業を継承する必要があるため、スポンサー探しは他人任せにせず、主体的に取り組んでいくべきと考えた。そして私は事業譲渡の対応を、私の最大の課題として位置づけた。
 黒田会長は、申立時の記者会見で、スポンサーについてはできれば地元の企業再生ファンドなどがいいという希望を述べていた。仮に同業大手に吸収されるとなれば、社員もまたスポンサー会社の歯車のひとつひとつとして継承されるにすぎず、経理や総務といった事務系の社員はとくに不遇となると思われた。そして本社事務所もまた、多くのオーナーが物件を持つ現在の事務所から移転することになるのは確実と思われたからである。それでは、オーナーにとって身近な管理会社ではなくなってしまう。

 事業譲渡は、以前より一般的に行なわれているM&Aの一類型である。私は、DKホールディングスにおいて資本政策関連業務としては、公募増資の審査対応や立会外分売・株式分割程度の経験しかなかったが、ここで、不動産管理事業の譲渡というM&Aの業務に取り組むことができることとなった。不安もあったが、ほかに途はなかったため、社員たちのため、と自らを鼓舞して取り組むこととした。

見通しはまずまず明るく感じた... このようなことから開始決定後、私は少しずつ証券会社や企業再生ファンドと接触を始めていった。
 企業再生ファンドとしては、地元にはナンバショットインベストメンツや臨界キャピタルという会社があり、すでに企業再生や事業継承の分野で実績を上げていた。これらの会社とは、黒田会長や岩倉社長が以前より懇意にしていたため、親身に相談に乗っていただいた。そのなかで不動産管理事業は、M&Aの世界では営業キャッシュフローの8~10倍の譲渡価格がつき、人気があるということがわかり、一安心であった。それもそのはず、この業界は、管理手数料が家賃の5%でほぼ低位に収斂し、提供するサービスはどこもほぼ同様、あとは、オーナーといかに人間関係を構築できるかで勝負が決まるという業界で、新規参入企業が簡単に多くの物件の管理を獲得することは不可能に近いからである。

 実際、申立の翌週から、東京や地元の企業からスポンサーの検討をしたいという会社が電話やファックスで6社くらいアプローチしてきた。これらの企業の業種や属性は様々であった。東京からは、企業再生を専門とする投資会社やWEB系の会社で事業の幅を広げようとしているような会社の問い合わせが多かった。地元からは、同業の不動産管理会社やデベロッパーからの問い合わせが多かった。また、企業が直接アプローチしてくる以外にも、大手の証券会社が、スポンサーの紹介やM&Aのアドバイザーをしたい、といって多数アプローチしてきた。
 このため、事業譲渡は、民事再生の立ち上がりにおいては、見通しはまずまず明るく感じた。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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